2004年11月14日

ニューメイド喫茶

「おかえりなさいませ、ご主人様」
 「おかえりなさいませ、ご主人様」店に一歩踏み入れると、メイド服を着た女の子がにっこり笑って出迎えてくれる。なんだここは?さっきまでいた外の世界とは明らかに違う。
まるでアニメのキャラクターみたいだ。完璧に作られた「メイド的笑顔」
 その店は、神戸の街中にある。こじゃれた雑貨店や衣服店と並ぶ、ふつうのビルの三階に。一見ただの喫茶店。しかし、中の様子はというと、たっぷりとしたレースのカーテンに、壁にはいくつもの天使の絵画。そして音楽は、大音量でクラシックがかかっている。 メイドはしずしずと私たちを席へ案内してくれる。あくまで従順に。そして例のあの笑顔で…。その笑顔が、こわい。
「後ほどご注文をお伺いします。」そう言って店の奥へ歩いていった。計算された歩き方。そのコスチュームも綿密に計算されている。膝下まである紺のスカートにレースがほどこされた白のエプロン。第一ボタンまできっちり留められた、白のシャツ。みつあみと、黒ぶち眼鏡。
 ここは、メイド服のコスプレ喫茶。10時〜19時まで営業している。ドリンクは五百円前後で、メニューもピラフやスパゲティ、ランチもあり、それ自体はそこらの喫茶店となんら変わりはない。ただ、テーブルの上に見慣れないものが置いてある。「店内撮影お断り」と書かれたボード。
 周りを見ると、どのテーブルにも置いてある。不思議だ。
 平日の午後二時すぎにもかかわらず席はほとんど埋まっている。客は全員男性。奥の二人連れ以外、みな一人で来ているようだ。そして、誰もしゃべらない。
 と、そこへ隣のテーブルへ、メイドがドリンクを運んで行った。
 例の笑顔で「お待たせいたしました。」
 客の男は顔もあげずに新聞を読んでいる。…いや、読んだふりをしていた。新聞に隠れて、チラチラメイド服の女の子を盗み見ている。他の客も同じである。
 みな、携帯やパソコンに熱中しているふりをしているが、メイドがそばを通るたび、彼らの視線はふわふわ動く。メイドがカップにコーヒーを注いでも、それらの視線はメイド服の店員と目を合わせない。意図的に。
 けっしてダイレクトにいやらしい視線を投げかけたり、じろじろ店員を見たりしない。
 これが、メイド喫茶のルールであり、プレイ・スタイルなのである。

「チリンチリン」
 鈴がなった。 
「はい、ご主人様」
 素早くメイドの一人が反応してそのテーブルへ向かう。この店は大して広くない。むしろ狭いほうである。それにも関わらず、どの客も店員を呼ぶときは、この天使の羽をモチーフにした呼び鈴を鳴らす。
 他の喫茶店でありがちな、「おい」、「ちょっと」などとは決して言わない。
 これはまさに客と店員の両者が生み出す世界。
 店員はメイド服を着て、客を「ご主人様」と呼び、つつましさを表現して、まさに“メイド”になりきる。
 それに加えて、この店の演出も一役買っている。砂糖と氷はハート型。あらゆる食器は天使で統一。お互いがご主人様・メイドになりきるような演出がなされた空間なのだ。
 コスプレ喫茶に週1で通う、ヒロシさん(仮名)に話を聞いてみた。 
 コスプレ喫茶へはなんで通うの?
「異空間やからかなぁ。だってあきらかに日常じゃない世界やろ?その世界観を楽しみに行く。あの空間とメイドが好きやねん。」
 喋りながら、薄笑いを浮かべている。
 メイドを直接見ないで、モノに隠れてみたりするのはなぜ?
「それは“萌え”やから。じろじろ見るモノではないねん。あくまでもコッソリが基本やな。メイドをチラチラ見て、それで満足やねん。」
 メイド喫茶のウェイトレスは、肌の露出が異常に少ない。たぶん町を歩く一般の女性よりも、ここの店員は肌を見せない。過剰なコスチュームと、敬語で身を固めたメイド喫茶の女性は、自分自身も徹底して隠す。
 しかし、「性」のニオイがしないのかというと、そうではない。むしろ、プンプンする。それが客の見る側の視点で言わせると、どうやら「萌え」が働いているらしい。
 それってメイドを性の対象として見ているということ?
「いや、それは違う!決して性欲はないねん。」
 いきなり、興奮して声を荒げた。
「ほんとに、メイドはいやらしさの対象ではない。“萌え”を説明するのは難しいんや。まぁ言ってもわからないかもしれないけどね。」
 彼はこう言いながら、彼は私たちをばかにしたように横目でちらっと見た。
 ヒロシさんによると、メイド喫茶に来るほとんどの男性客が、この“萌え”の意識を共有しているのだという。しかも、そのことを「いやらしさ」を結びつけるのを極端に嫌がる。
 彼がメイド喫茶にはまるのは、それだけではない。
「やっぱり、なんと言ってもあの対応やな。『ご主人様』って呼ばれたときはゾクゾクする。それに、なんでも自分の言うことを聞くやろ?隷属的で、奉仕されてるって、感じるのがいい。」
 頭をボリボリかきながら、顔には満面の笑みが広がる。
 ヒロシさんは、線が細く、色は白くてやや病弱な印象だ。ふだんはアニメの声優学校に通う、専門学生。スポーツはまったくせず、マンガやゲームにはまっているという。
 毎日の生活では、自分が誰かに尽くされるということはない。だからこそ、よけいに「奉仕されること」に快感をおぼえるという。
 メイド喫茶の女の子に、電話番号聞きたいと思う?
「まったく思わない。」
 予想外の答えに面食らった。なぜなのだろう。
「メイドは喫茶店のなかで、自分の仕事に徹してもらえれば十分やな。そのかわり、その格好にあったロールプレイングを徹底的に演じてほしい。」
 彼は、落ち着かなく椅子をゆらしている。店に入って、感じた疑問、誰も喋らない理由を尋ねてみた。
「ボクやほかの客が喋らないのは、その世界観を壊したくないから。だから、注文とか必要以上の話をペラペラ喋りたくない。もちろん、メイドも同じや。」
 勢いづいて、彼の口は止まらない。なにが同じなのだろう。
「例えばメイド同士でペラペラ喋っていたらボクは間違いなく『責任者をだせ!』ってキレると思う。なに考えて仕事してんねん!ってな。」
 話しながら、みるみるうちに顔が赤くなってくる。握りこぶしが震えている。
 それってそんなに許されないことなの?
「はぁ・・。」
 ゆらしていた椅子が止まった。ため息をつき、うんざりしたように話しはじめる。
「だって、メイドは召使いやねんから、ご主人様の前で私語は厳禁やろ?そんなペラペラ喋られたら、メイド喫茶の世界が崩れる。」
 ここで、コホンと咳払いした。
「その点、ここのメイド喫茶はわかってるな。メイドもいっさい喋らないし、店内撮影も禁止や。」
 ああそうか。先ほどテーブルに置いてあった、「店内撮影お断り」のボードを思い出した。
「店内でパシャパシャやられたら、店にとっても迷惑やし、他の客にとっても迷惑。世界観が壊れるし。メイドもそういう意味で嫌がると思うわ。」
 世界観。何度となく出てきたこの言葉。彼はそれにこだわりつづける。
 メイド喫茶で働く女の子はどうなのだろう?
「彼女たちもそれは理解してると思う。だから徹底的に演じてくれてるんや。客のボクたちは彼女たちのプライベートに興味はない。彼女たちもそのことに気づいてると思うなぁ。」
 それってつまりどういうこと?
「つまり、メイドの女の子たちも、プライベートを聞かれることはないってわかってるってこと。それに、ボクらが奉仕されてることを喜んでるのもわかってると思う。彼女たちは奉仕することにすくなからず自己満してると思うなぁ。」
 こう話すヒロシさんは、眉間にシワを寄せて、うーん、と唸った。
 考え込んだあげく、こう言った。
「でも、それに気づいても、気づかないフリをするんや。お互い楽しめるようにな。」



 なんとか書き終わりました。ちょっと長いかなぁという気もするけど、必要と思う部分入れてたらこうなった。コスプレ焼肉との比較を書きたかったけど、メイドが最初にくると思ってやめました。おかしな部分&言い回しがあったら言ってなー。
posted by なおみ at 20:23| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
@ふだんはアニメの声優学校に通う、専門学生。
→ふだんは普通の専門学生。

A「つまり、メイドの女の子たちも、プライベートを聞かれることはないってわかってるってこと。それに、ボクらが奉仕されてることを喜んでるのもわかってると思う。彼女たちは奉仕することにすくなからず自己満してると思うなぁ。」
 こう話すヒロシさんは、眉間にシワを寄せて、うーん、と唸った。
 なるほど。メイド喫茶の時給は800円。わずらわしい服装。制限される行動。それでも、メイド喫茶で働く女性がバイトをやめることはほとんどないのである。
 *女性のこと書くべきか迷い。どうしましょー。
Posted by かずき at 2004年11月14日 23:13
やっぱり?客をあまりにもアニメおたくなこと書かないほうがいいよね。それと、女性についてのコメントはいいと思う!いれた方が説得力あるかも★
Posted by なおみ at 2004年11月15日 00:24
女性のことを書くのをかずくんが迷ってるのはなぜ?書くならポスターのことも入れて書いたらもっとわかりやすくていいんじゃないかなって思ったけど、一方向コミュニケーションのことをドンっと言うなら女性のこと言わないほうがいいかもって思った。
Posted by manami at 2004年11月15日 00:34
 女性ので迷うんは、中途に絡めるべきではないんかで悩む。
 入れるならポスターもどっかで自然に絡ませたいなー。
 一方向のことをいうためにも、女性は入れるべきという判断やねん。何でかというと、お互いがお互いのために喫茶を使うんやけど、両者とも相手はどうでも良いやん??
 客と店員がいるけどでも、お互いがお互いを利用するだけで、かなり両者の一方向。だからこそ共通の世界が生まれるって感じかなーって。
 そう読めない感じなら外すべきかな??

 後、おたくっぽいのはかなり伝わってるし、声優はなぁ(笑)。
Posted by かずき at 2004年11月15日 02:19
遅れてすまねえ!
うん、ヒロシさんの声優とかゆうのは言い過ぎやわ!あと週一で通うのも。
女性側(やる側)の視点が書かれていないけど、どう絡ませよう?ポスターを使う?ポスターで店側が共通の世界観を作っているってこと?
Posted by kouhei. at 2004年11月15日 21:11
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